「HK−3型」用専用火口


この製品については、まず、紹介すべきかどうかえらく困りました。というのは、公式には製造元が公表されているわけではない上に、単に、プラチナ触媒を使っただけのハクキンカイロとは使用目的も使用方法も違う別の製品だからです。(追記。後述するとおり、2022年に製造元が公表されました)
とはいっても悩んでてもしょうがないので勝手に紹介することにします。

ビルに住んでいる、あるいは、仕事場がビルの中にあるような方は、当然ながら、そのビルの天井に火災報知器がついているのはご存じかと思います。そして、定期的に消防設備会社がやってきて、火災報知器や非常ベルなどの点検をしているところを見たことがあるでしょう。あるいはたまたま出かけた先のビルで、そういう点検作業に出くわした方もいらっしゃるでしょう。
ところで、火災報知器が正常に動作しているのかどうか、どうやって検査すればいいのでしょう? 一番安直な方法は、火災報知器を火であぶることです。もしそれで非常ベルが鳴れば、正常に動作しているのが分かります。が、火であぶったおかげで報知器そのものが焼けこげて壊れたら何の意味もありません。それに、火災報知器の検査に来た人たちは、いちいちライターやマッチで火災報知器をあぶるなどという原始的なことはしてないようです。棒の先に半球状のものがついた器具を使って、その半球を火災報知器にかぶせていましたよね。
当サイトが何のサイトなのかということを考慮に入れて、「まさか、あの半球の中にはハクキンカイロが入ってるわけじゃないだろうな」と思った方、実は、それが正解です(おいおい....)。中にベンジンと白金触媒が入っていて、点火してそれを火災報知器にかぶせ、本当に警報が鳴るかどうかを調べているのです。
とはいっても、あの器具をハクキンカイロ株式会社が作ってるわけじゃないだろう、というと、実は、その心臓部の白金触媒部はハクキンカイロ株式会社製だったりします。種明かしをしましょう。「HK-3」というのは、あの、消防設備会社が点検に来るときに持ってきた、棒の先に半球状のものがついた検査器具の名前だったのです。これはそして、その先についている、HK-3の心臓部、それこそが、今回ご紹介する「HK-3型」用専用火口、なのです。
※火災報知器には、今回の説明で出てきたような熱に反応するタイプのほか、煙に反応するものがあります。当然ながら、そちらの報知器では異なる検査器具が使われます。
※この製品は、いくつかある「検定を合格した」検査器具のうちの1つです。消防器具は必ずこの器具で検査をしなければならない、というわけではありません。地方や消防業者によっては、他の検定器具を使って検査をしている場合があります。

っていうか露骨に箱に「ハクキンカイロ株式会社」って書いてあるんですけど.....
左端のハクキンカイロ用PEACOCK換火口は、大きさの比較のために一緒に撮影したものです。
念のため、裏です。

使用説明書によると、指定燃料はハクキンベンジンです....

それでもって、このHK-3用火口を分解してみました。ハクキンカイロ用火口と同じように、パーツは留め金式になっているだけなので力さえ入れれば簡単に分解することができます。まるで、ハクキンカイロ株式会社の製品みたいです(だからハクキンカイロ製品だってば)

別に、ハクキンカイロPEACOK換火口までも分解しなくてもいいじゃない、という方もいるかもしれませんが、実はこれはわざわざ分解したのです。PEACOCK換火口とHK-3用火口、よくよく見ると、何だか大きさに関係性があるように見えませんか? そうです。縦の幅が同じで、横幅はちょうどPEACOCK火口の4倍なのです。ということは、ひょっとして、HK-3用火口をハサミで縦に4分割なんかしてみて、だめになったPEACOCK換火口につけてみたらいいんじゃないか、とか、思うだけの人はいるかもしれませんが実際にやってみました(おいおい)。
サイト作者の感覚だと、HK-3用火口のほうが少し厚みがあるような気がするのですが気のせいかもしれません。とにかくだめになったハクキンカイロ用火口に4分割した触媒を詰め込んで、いざ、使ってみたからといって、世の中そんなにうまくいくわけがありません。と言いたいところなのですが、実は普通に使えてしまいました.....
とはいっても、HK-3用火口のプラチナ触媒部分と、ハクキンカイロ用火口の触媒部分が同一のものとして設計されているという保証はありませんので、これはまあやってみたらうまくはいっちゃった、というくらいにとどめておいてください。
あと、この、HK-3用火口、実は値段がそんなに安くありません。確か定価だと2000円以上したと思います。安いところはありますが、その前に、HK-3用火口を売っている店を探すのがひと苦労です。通販で買っても送料がかかりますし、手間とかを考えたらあんまり安くはつきそうにないです。ネット最安値の店で買っても1個1600円、これを4分割したとして、1個あたり400円。一方、ハクキン純正火口は本社通販で648円。しかも火口ならメール便で送ってくれます。カイロ数十個分の火口をまとめてこの方法で取り換えようとかいう人にとっては多少安くはあがるかもしれませんが、正直、一般の利用者がそこまでしてHK-3用火口を買う必要性はなさそうです。(価格は2010年現在)

なお、この製品は、ハクキンカイロ株式会社は製造をしているだけで販売はしていません。この製品に関する問い合わせをハクキンカイロ株式会社にはしないでください。販売元は東京消防設備保守協会(現 東京防災設備保守協会)です。販売元の公式商品紹介ページはこちら。ここを読むと、HK-3が出来るまでの間、某プロジェクトX並の涙ぐましい開発の歴史があったのが分かります。でも、大昔はほんとに火災報知器にアルコールランプをあてて検査してたんですね.... もう1つ、HK-3ができてから、HK-3用火口ができるまで10年もかかってるんですが、その間はHK-3は火口がだめになると使い捨てだったんですかね。

(追記)公式サイトによれば、専用火口は定価1600円(税別)だそうです(2011年1月現在)。HK-3用専用火口についての記述もちょっと増えてました。はっきりは書いてないですが、HK-3初期型はハクキンカイロ用火口をそのまま使用するモデルで、その後専用火口使用の後期モデルが開発されたようです。

おまけ。
このHK-3用火口にも、しっかり「ハクキン」ロゴがありました。

このように、ハクキンカイロ株式会社とその製品は、一般の人々の見えないところでも大活躍しているのでした。

(追記) 2022年12月25日、ハクキンカイロ株式会社公式サイトがリニューアルされ、遂に、この「HK-3型」用専用火口がハクキンカイロ株式会社製であることが公式に発表されました。

能美防災の自動火災報知設備総合カタログにもHK-3という加熱試験器が掲載されています。能美版の製品名は「HK-3型A組品」になっていますが、性能評定番号が全く同じ評14-345号なので、東京防災設備保守協会版と全く同じものであると考えられます。ただし、東京防災設備保守協会版の型番はHK-3のままです。たぶん販売代理店契約か何かを結んで能美防災が販売している形になっているのだろうと推測します。
能美防災のカタログにももちろん、HK-3用火口が掲載されています。能美版の商品名は「HK-3用火口」です。もちろん、東京防災設備保守協会版と、パッケージや説明書も含めて全く同じものです。


さらに追記

同様の検査器具を、パナソニックも出しています。
型番をBVT9201Kといい、サイト作者は気付きませんでしたが、2002年7月1日発売の機種だそうです。
形もHK-3と少し違い、性能評定番号も評14-124号と、HK-3とは明らかに別の製品ですが、同じようにベンジン式です。
やはり消耗部品として火口がラインナップされていて、BV9913という型番のはずなのですが、実際の製品についていた型番はBVT9201K7050でした。

火口のパッケージはこんな感じです。

HK-3用火口よりちょっと大きめな感じです。そしてこの箱を開けると中から、

出て来たのはまごうことなきHK-3型専用ハクキン火口。そして燦然と輝く、製造元ハクキンカイロ株式会社の文字。

この製品を見るといろいろと感慨深いものがあります。何しろ、パナソニック株式会社と記された箱の中から、製造元ハクキンカイロ株式会社と記された箱が出てくるのです。
しかもこの2社は、何十年もに渡ってベンジン式カイロメーカーとして市場で戦い続けた、いわば因縁のライバル同士でもあるのです。
ナショナルカイロの撤退から30年。まさかこんな形でパナソニックがベンジン式カイロを再発売していたとは知りませんでした。
それにしても。この製品が発売されるまでのことを想像します。パナソニックのそこそこえらいひとが、頭を下げて、かつてのライバル企業、ハクキンカイロ株式会社に、うちの製品に火口を供給してくれ、と、頼みに行く姿を。
案外、トップ会談くらいやってるんじゃないかともいらぬ妄想が膨らみます。パナソニックの社長がハクキンカイロの社長のところに頼みに行くとかいうことも、あるいは実際にあったのかもしれません。

BVT9201Kは取扱説明書がネット公開されています。その中にも何度も何度もハクキン火口という文言が出てくるので、パナソニック社内ではこのパーツの名はハクキン火口というようです。(箱には加熱試験器火口〔グラスウール付〕と書いてあります)
BVT9201Kの指定燃料は、「白金カイロ用ベンジン」です。できればそこはナショナルカイロ用ベンジンって書いておいてほしかった。(冗談です)
もちろん肝心の火口のほうにも東京防災設備保守協会版と同じく説明書がついていて、そこではハクキンカイロ用ベンジンが指定燃料になっています。


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