燃料に関する実験

実験13 燃料の比較

カイロ用に使用できる燃料について、調べられる範囲で比較をしてみました。
ただ、この結果を曲解して使われると大変に困るので、わけがわからない方は読み飛ばしてください。
具体的には、たとえば、この実験ではコールマンホワイトガソリンなどの値が低く出ています。ということはコールマンジャパンは高い価格で粗悪品を売っているのか! というと、そういうわけではありません。サイト作者がカイロ用として重要な性質を調べたので、ハクキンベンジンなどが「よい」値になっているだけです。コールマンホワイトガソリンは、コールマンのガソリンストーブやランタン用に調整されていて、カイロに使われることは想定していないし、カイロ用に特別な調合をしているわけでもありません。
逆に、ハクキンベンジンはコールマンのガソリンストーブに使えはするかもしれませんが、割高になるだけで純正ホワイトガソリンを使ったときに比べてあまり得になるわけでもありません。
その点をご留意の上でごらんください。

その1 比重(密度)

石油を精製するときに、その比重はわりと重要になってきます。
具体的には、たとえば、比重0.75の液体1リットルは750gに、比重0.70の液体1リットルは700gになります。
石油などの燃焼時の熱量は、重量にほぼ比例しますので、上記のようなガソリンやベンジンそれぞれ1リットルを完全に反応させたときは、当然、比重0.75のもののほうが多く熱が出ます。ということは、比重0.75のホワイトガソリン1リットルが740円で、比重0.70のホワイトガソリン1リットルが700円で売っていた場合、実は比重0.75のものを買ったほうがお得ということになります。ただし、この比重の値は、製品のパッケージ等には表示されていません。少なくとも日本では、ガソリンなどは容量(リットル数)を表示すればよいことになっているからです。さらに、全く同じ銘柄でも、比重はロットによって微妙に異なります。これは、超簡単に言うと、石油からまず灯油や軽油や自動車用ガソリンなどが作られ、余った分からホワイトガソリンやカイロ用ベンジンが作られているためです。逆にいうと、自動車用ガソリンなどの比重も、ロットごとに変わっていることになります。
比重の違いはもう1つ、カイロにとっては重要なものの指標になります。だいたい、比重の小さい石油精製物は、沸点が低く、揮発しやすい性質があります。

比重
(カイロ用ベンジン)
ハクキンベンジン 0.730
東薬 0.723
NT(タカビシ) 0.724
鳩宝印(原薬品) 0.725
バラ印(石井化薬) 0.733
(ライター用オイル)
Zippo 0.725
シラカワ 0.711
ダイソー 0.717
(ホワイトガソリン)
コールマン 0.700
コールマンプラス1 0.696
ジョイフル本田 0.696
やませみ(メイホウ) 0.711

※室温約15℃、実験用比重計を使用(検定品ではありません)

その2 揮発性

次に、どれくらい揮発しやすいのか、を調べました。
マンナンライフの蒟蒻畑のカップを12個用意し、それぞれの重量をはかりました。1.1gのものと1.2gのものがあり、1.1gのものには液を9.1gになるまで、1.2gのものには9.2gになるまで入れました。つまり液量は8gになります。
その後、2時間後、13時間後、16時間後に重量を測定しました。表に掲示してあるのは、カップの重量を引いた値です。測定には家庭用の0.1gまではかれるはかりを使用しました。

2時間後 13時間後 16時間後 24時間
ハクキンベンジン 7.2g 5.3g 5.0g 4.3g
東薬 6.8g 4.2g 3.6g 2.5g
NT(タカビシ) 6.8g 4.2g 3.6g 2.6g
鳩宝印(原薬品) 6.9g 4.3g 3.9g 2.8g
バラ印(石井化薬) 7.3g 5.3g 5.0g 4.2g
Zippo 7.7g 6.8g 6.6g 6.1g
シラカワ 6.3g 3.3g 3.1g 2.4g
ダイソー 7.9g 7.3g 7.1g 6.7g
コールマン 5.7g 3.3g 3.1g 2.6g
コールマンプラス1 6.7g 3.0g 2.5g 1.6g
ジョイフル本田 6.1g 3.3g 3.1g 2.4g
やませみ(メイホウ) 6.9g 4.7g 4.3g 3.6g

※約3週間放置したところ、カップ内に残留したものはありませんでした。ただし、ほとんどのものが7日以内で完全に蒸発したのに対し、ダイソーオイルだけは2週間以上かかりました。

銘柄によって相当の差があることがわかります。特にホワイトガソリンはかなり早く揮発しています。ただしこれは、それらの燃料の質が悪いという意味ではありません。ガソリン式ストーブなどは、いったん器具のタンクに燃料を入れてしまえば、揮発する心配はありません。それに、ホワイトガソリンは機械などの洗浄にも使われます。洗浄したあとはなるべく早く揮発してくれたほうが都合がよいわけですから、早く揮発することはホワイトガソリンにとって悪い性質ではありません。
どちらかというとカイロ用にとっては揮発しにくいほうがよいわけですが、揮発しにくい成分が多いと、反応できずにタンクの中にたまり続け、綿を痛める可能性もあります。揮発しにくければしにくいほどカイロにとってよい、というわけではありません。

その他の燃料についてはかなり大きな差が生じているのがわかります。ライターの中に入れてしばらく持たせなければならないZippoオイルなどは実際に揮発しにくくなっています。
意外なことに、ハクキンベンジンと石井化薬のベンジンは(比重も含め)はかった限りでの特性がほぼ同じでした。また、この2種を除くその他のカイロ用ベンジン同士も特性がほぼ同じでした。

なお、ダイソーのライター用オイルは、ロットによって容量に激しくばらつきがあります。容器にはどれも「120ml」と書いてあるのですが、サイト作者の計測したところによると、最も少ないもので83mlしか入っていませんでした。逆に割高になる可能性もありますので、ダイソーのものは緊急でほかに選択肢がないという場合以外はおすすめしません。

追実験その3

マルミ印のカイロ用ベンジンというのがひんぱんに話題に上がるのですが、サイト作者の近辺では販売店が見つからず、上の2つの実験を行った際には使用できませんでした。
その後、現物を入手できたので調べました。パッケージには新日本石油製である旨が表示してあり、比重や特性はNTベンジンや同じく新日本石油製の東薬カイロ用ベンジンと比重、持ちはほぼ同じでした。(正確性を期するため、上記と同じように、ハクキンベンジンを含むカイロ用ベンジン数種で同時に揮発実験を別に行いました)


実験15 重質ナフサと合成イソパラフィン系炭化水素

2006年の途中から、Zippoオイルの成分がそれまでの重質ナフサから合成イソパラフィン系炭化水素に変わりました。
(実験13で使用したのは重質ナフサです)
そこで、比較のために同じように揮発実験をしてみました。
ただし、前回は2006年1月7日19時〜8日19時という大変に寒い時期にやりましたが、今回は2007年11月30日21時〜12月1日21時という、この季節にしてはちょっと暖かめの日になってしまいました。

比重(密度)測定

比重
(カイロ用ベンジン)
ハクキンベンジン 0.734
NT(タカビシ) 0.726
(ライター用オイル)
旧Zippo(重質ナフサ) 0.744
新Zippo(合成イソパラフィン系炭化水素) 0.726
シラカワ 0.714
ダイソー 0.740
(ホワイトガソリン)
コールマン 0.700

室温15℃、実験用比重計を使用(検定品ではありません)

揮発実験

実験のやり方も同様です。マンナンライフの蒟蒻畑のカップを7つ用意しました。1.1gのものと1.2gのものがあったので、1.1gのものにはカップも含め9.1gになるまで液を入れ、1.2gのものにはカップを含め9.2gになるまで液を入れ、2、13、16、24時間後に重量をはかりました。

表の重量はカップの値を引いた数値です。

0時間後 2時間後 13時間後 16時間後 24時間 (参考)
72時間
(参考)
96時間
(参考)
120時間
ハクキンベンジン 8.0g 7.4g 5.3g 4.9g 3.8g 1.1g 0.4g 0.0g
NT(タカビシ) 8.0g 6.8g 3.9g 3.2g 1.7g 0.0g
旧Zippo(重質ナフサ) 8.0g 7.7g 7.0g 6.7g 6.1g 3.7g 2.9g 2.2g
新Zippo(合成イソパラフィン系炭化水素) 8.0 7.7g 6.8g 6.5g 6.1g 2.9g 2.0g 1.4g
シラカワ 8.0g 6.6g 3.1g 2.7g 1.8g 1.7g 1.6g 1.5g
ダイソー 8.0g 7.6g 5.9g 5.5g 4.4g 1.5g 0.7g 0.3g
コールマン 8.0g 6.0g 3.4g 3.0g 2.3g 0.8g 0.4g 0.3g

この後、ほとんど全ての銘柄が、9日以内にほぼ完全に蒸発しましたが、シラカワだけは21日後も完全に蒸発はせず、0.1g残っていました。

前回と気象条件が相当に異なるはずなのに、少し揮発のスピードが上がっただけで、ほとんどの製品は、前回とほぼ同じ減り方をしました。ただし、一部の製品は明らかに他の銘柄よりも減り方のスピードが上がっています。ロット違いかも知れませんが。
また、Zippoオイルも、新旧どちらも揮発の仕方はほぼ同じでした。比重や、長い時間置いたときの減り方が新旧で若干違う値が出ていますが、主な原因は、旧Zippoオイルの変質と推定されます。変質については後述します。

この実験で注意しなければならないことがいくつかあります。今回も、前回同様、新品の燃料を店頭でほぼ同日に買ってきて、同時に封を開けるという方式を使いました。製品の変質によって値が変化する可能性を極力減らすためです。もっとも、製品によって、店舗によって売れ行きは違うので、完璧な方法ではありませんが、できうる方法として最もよいと思われるこの方式をとりました。
しかし、今回は、1つだけ、ほぼ同日に購入することができなかったものがあります。そうです。重質ナフサの旧Zippoオイルです。これだけは、どんなに頑張っても、1年半以上前に製造されたものしか手に入りません。
そうすると問題になるのが、旧Zippoオイルの変質です。2,3年では変質などしないのか、あるいは無視できない程度に変質してしまっているのか。実験結果から結論を出す前に、その部分をはっきりさせる必要があります。
そもそも変質なんてするの?って方は、コスモ石油のサイトをごらんください。これによれば、ガソリン(を含む燃料油)は、徐々に酸化が進み、さらに軽質成分が蒸発します。つまり、変質(コスモ石油の用語は「劣化」)します。しかし、どれくらいで劣化するのかという情報は、コスモ石油のサイトにはありません。保存状態によって異なる、という書き方だけです。サイト作者の手元のZippoオイルが変質しているのか、していないのかをどうやって調べたらよいのでしょう。
そこで一つ方法を見つけました。2003〜2005年版ハンディウォーマーに添付されていたオイルの重量を、缶ごと量るのです。もし、古いものが軽く、新しいものが重いとしたら、それはつまり、注ぎ口の継ぎ目から徐々に成分が揮発している、つまり、変質が進んでいると判断することができます。
残念ながら、はっきりと2003年のものと断言できる缶は見つかりませんでした。しかし、2004年,2005年モデルのハンディウォーマーのパッケージ(Zippo及びマルカイ)から開けていない缶が2缶ずつ見つかりましたので、重量を量りました。

重量(含缶、内容物)
2004(その1) 139.6g
2004(その2) 138.1g
2005(その1) 141.4g
2005(その2) 140.3g

賢明な読者の皆さんにはもうおわかりでしょう。Zippoオイルは、たとえ使わなくても、徐々に内容物が揮発し、そして変質するのです。
最初は沸点の低い軽質成分のほうが多く揮発しますので、比重も当然、数年かけて徐々に上がっていきます。
そんなわけで、今回の実験結果は、旧Zippoオイルの値が製造直後よりも「比重が大きく出ている」「揮発が遅くなっている」ことを考慮に入れて見てください。そうして見てみると、前回の実験の際の旧Zippoオイルの比重0.725と今回の新Zippoオイルの比重0.726はほとんど同じです。揮発の仕方についても、前回の旧Zippoオイルと今回の新Zippoはほぼ同じで、気象条件を加味すると、新Zippoのほうが若干揮発しにくいと考えられます。

※追記:Zippoオイルは、同一ロット品でも元々の重量に最大1.5g程度の差があることが分かりました。ただ、元々封のない商品なので、小売り段階までの間で抜き取り等がされると調べようがありません。小売店側で封をして売っているものも調べましたがやはり差がありました。上記の結果は全部、パッケージに入ったオイル缶そのものを計っています。変質が進んでいることを証明するためには、開けていない同一の缶を継続して数年間測定する必要があるかもしれません。また、重量も、重質ナフサのもの(旧)が138〜141gだったのに対して、合成イソパラフィン系炭化水素(新)のものは新品状態で137〜138g程度でした。製造工程が一新されているので、これが比重が変わったかどうかの推測には使えませんが....(133ml缶に、揮発分を見込んで136ml入れていた、などという可能性もあるためです)

そしてもう1つの注意を。合成イソパラフィン系炭化水素は、石油を単純に蒸留して作るものではありません。石油を蒸留した成分に水素などを加えて高温高圧にして化学反応させて作ります。するとどうなるか、というと、ベンジンとホワイトガソリンを比べるときのように、単純に重量で発熱量を推測することがしにくいのです。ただ、一応、そんなに大きくは変わらないだろう、という推測はできます。(詳しい方はもっと詳しく計算してみてください)

上記の結果から、サイト作者は、揮発性や比重、発熱量に関して、新旧Zippoオイルに大きな違いはない、と結論します。


合成イソパラフィン系炭化水素について

合成イソパラフィン系炭化水素について調べてみたのですが、非常に低い温度で沸騰や引火をするものから、本当にパラフィン状になっていて、よっぽど気合いを入れて高温加熱しないと引火すらしないものまで、種類は非常に豊富でした。ただ、缶には「第4類第1石油類」と書いてありますので、引火点が低い比較的炭素の少ない成分から作られているのは確実です。(第1石油類は、引火点21℃未満の物質の分類です)
かつてのZippoオイルの成分、「重質ナフサ」と何が違うのか、というと、重質ナフサのほうは(1)アルカン(鎖式飽和炭化水素)、(2)イソパラフィン、(3)シクロアルカン(環式飽和炭化水素)、(4)不飽和炭化水素、(5)芳香族(ベンゼンなど)、(6)硫黄分など、の混合物です。ただし、(4)の成分は元々ほとんど含まれていないようです。(6)の硫黄分については、現代では精製段階で脱硫装置によって分離されてしまい、製品中にはほとんど残りません。従って、重質ナフサの成分はほぼ(1)(2)(3)(5)だと思えばいいです。
一方、合成イソパラフィン系炭化水素のほうは、重質ナフサと水素を反応させた上で他の成分をとりのぞき、(2)のイソパラフィンだけにしたものだと思えばいいです。
(1)のアルカンと(5)の芳香族は、それなりににおいがあります。特に、芳香族は強い刺激臭がします。新Zippoオイルはこれらの成分が取り除かれているので、元々においが少ないといえます。(もっとも、通常は精製の途中で大部分の芳香族は取り除かれてしまうので、旧Zippoオイルにも、それほど多くの芳香族は入ってなかったと思います)ただし、イソパラフィンも完全に無臭ではなく、わずかににおいはあるようです。
では、化学的な特性はどうなのでしょうか。国立医薬品食品衛生研究所のサイトにある日本語版ICSCで調べてみました。
下の表は、カイロ用ベンジンやライター用オイル、ガソリンなどに多く含まれる代表的な3種類の物質、ヘキサン、ヘプタンとオクタン、そしてその構造異性体1種類ずつとの比較です。これら6種しか調べなかったのは、種類が膨大にあって調べきれなかったのと、日本語版ICSCには全種類のデータがなかったためです。逆に言うと、通常は1種類1種類の細かい性質を調べなくても、ヘキサンの異性体ならノルマルヘキサンとだいたい同じ性質として扱っても通常はほとんど問題が生じなくて、それ以上の細かい性質とかは調べる必要性がない、という意味でもあります。

ヘキサン ヘプタン オクタン
名称 ノルマルヘキサン 3-メチルペンタン ノルマルヘプタン イソヘプタン ノルマルオクタン 2,2,4-トリメチルペンタン
(イソオクタン)
分子式 C6H14 C6H14 C7H16 C7H16 C8H18 C8H18
分子量 86.2 86.2 100.2 100.2 114.22 114.3
構造式 CH3(CH2)4CH3 CH3CH2CH(CH3)CH2CH3 CH3(CH2)5CH3 CH3CH(CH3)(CH2)3CH3 CH3(CH2)6CH3 CH3C(CH3)2CH2CH(CH3)2
融点 −95℃ −118℃ −91℃ −118℃ −56.8℃ −107℃
沸点 69℃ 63.3℃ 98℃ 90℃ 126℃ 99℃
比重 0.66※ 0.66 0.68 0.68 0.70 0.69
蒸気圧(20℃) 17 kPa 20.5 kPa 4.6 kPa 5.3 kPa(14.9℃) 1.33 kPa 5.1 kPa
引火点 −22℃ −20℃ −18℃ −18℃ 13℃ 4.5℃
備考 アルカンの仲間 イソパラフィンの仲間 アルカンの仲間 イソパラフィンの仲間 アルカンの仲間 イソパラフィンの仲間
要するに、何が
分かるかっていうと
沸点が低くて蒸気圧の高い3-メチルペンタンのほうが揮発しやすい。
分子量、比重はほぼ同じなので、発熱量は同じ。
沸点が低くて蒸気圧の高いイソヘプタンのほうが揮発しやすい。
分子量、比重はほぼ同じなので、発熱量は同じ。
沸点が低くて蒸気圧の高いイソオクタンのほうが揮発しやすい。
分子量、比重はほぼ同じなので、発熱量はほぼ同じ。
(ガソリン、ベンジンとしては)比較的に軽質成分 (ガソリン、ベンジンとしては)比較的に重質成分

※何故か、日本語版ICSCでは、ノルマルヘキサンだけ、比重の有効桁数が少なかった(小数第1位、他の物質は小数第2位)ので、この値だけは別のところの値を使用しています。

6種類しか調べてませんが、要するに、同じ分子式のアルカンとイソパラフィンでは、(1)イソパラフィンのほうが揮発しやすい、(2)比重や発熱量はほぼ同じ、ということがだいたい分かります。
新Zippoオイルが、単純に「ノルマルヘキサンの代わりに3-メチルペンタン」、「ノルマルオクタンの代わりにイソオクタン」と、単純に同じ分子式の成分に取り換えただけだとすると、発熱量は同じで、揮発しやすい製品になるはずです。が、サイト作者の実験では、どちらも同じように揮発しました。これは重質成分とかをわざと加えて揮発の仕方が旧Zippoと同じになるように調整しているのかもしれません。(たとえば、ノルマルヘプタンのかわりにイソオクタン、など)
サイト作者の出した結論を言うと、新Zippoオイルの成分は、重質ナフサからにおいの強い成分を取り除き、代わりに発熱量がほぼ同じでにおいの少ない(そして、生物への刺激も少ない)合成イソパラフィン系炭化水素に差し替えた上で、早く揮発するのを防ぐために何らかの加工(恐らく、重質成分の添加)をしたものだろうと推測されます。もっともこの推測のとおりだとすると、新Zippoオイルのほうが比重が高くなるはずなのですが、そうなっていないのでほかの方法が使われたのかもしれません。

においについても調べてみたのですが、漠然と、アルカンよりイソパラフィンのほうがにおいが少ないみたいことを書いているサイトとかは見つかったのですが、それ以上は分かりませんでした。ICSCにはにおいに関する記述がほとんどないのですが、生物への刺激に関しての記述はアルカンよりイソパラフィンのほうが少ないようです。もっとも、単に調査不足という可能性もありますが。
しかし、生物への刺激が少ないのは確からしく、化粧品や、刺激の少ない(シックハウス症候群になりにくい)塗装剤とかにもイソパラフィンは使われているそうです。それらの用途用のイソパラフィンは、ライター用オイルよりは分子量の大きい成分のようですが、一応、化粧品に使われている可能性のある成分のうち「(C7,8)イソパラフィン」っていう成分は多分イソヘプタンやイソオクタンの仲間で、ライター用オイルにも含まれる成分です。
一方、「(C13,14)アルカン」より軽質なアルカンは、化粧品には使われてはいないようです。
カイロ用ベンジンやガソリンに使われるのはC5〜C8程度のものです。

なお、イソパラフィンはイソアルカン、イソアリファーテなどと呼ばれることもあります。


実験16 Zippoオイルの変質

Zippoオイルの比重を計り、そのまま放置して徐々に揮発させます。
2ヶ月後、再び比重を計り、成分に変化があるかを調べます。

比重
2007年12月8日 0.724
2008年2月8日 0.728

室温15℃、実験用比重計を使用。
なお、2008年2月8日にはほぼ同時に新品のものの比重も計りましたが、そちらの値は0.721でした。

この実験結果から、Zippoオイルが揮発する際は、軽質成分が先に早く揮発し、重質成分が多く残るということが分かりました。


実験17 カイロ用ベンジンの変質

製造後20〜30年のカイロ用ベンジンが入手できたので、比重や揮発性について調べました。

比重
ハクキンベンジン 0.729
NTベンジン 0.725
1984年製造のナショナルカイロ用ベンジンゴールド500 0.746
透明ガラス瓶入りハクキンベンジン(1980年代のもの?) 0.752

1984年ものは、密封してありましたが内容物は約4分の1弱に減っていました。計算すると、毎年平均6%が揮発していたことになります。
ガラス瓶入りハクキンベンジンは、約半分程度までは残っていました。
なお、ナショナルカイロ用ベンジンと、NTベンジンは、銘柄が違いますが発売元が同じ(タカビシ化学)です。NTベンジンにもナショナルカイロ用に使えるという表記もありますし、恐らく、製造時の品質の差はそれほどにはない、と推測できます。が、比重で見て分かるとおり、相当の差が出ています。
これらの結果から、、カイロ用ベンジンも、経年変化により変質し、さらに、その変質の仕方は、軽質成分が先に揮発して、主に重質成分が残る、という形であることが分かります。
さらに、これらを含むカイロに使用可能な燃料を使って揮発実験を行いました。実験の方法は、実験13、実験15と同じで、マンナンライフの蒟蒻畑のカップに8gの燃料を入れて、数時間ごとに重量を量るという方式です。

0時間 2時間後 13時間 16時間後 24時間後 48時間後 72時間後 96時間後 完全に揮発
ハクキンベンジン(新品) 8.0g 7.4g 5.8g 5.5g 4.6g 3.3g 2.3g 1.6g 9日
NTベンジン(新品) 8.0g 6.9g 4.9g 4.5g 3.5g 1.4g 0.1g 0.0g 5日
コールマンホワイトガソリン 8.0g 6.1g 3.7g 3.2g 2.8g 1.9g 1.3g 0.9g 12日
Zippoオイル 8.0g 7.8g 7.1g 6.9g 6.4g 5.2g 4.1g 3.2g 12日
透明ガラス瓶入りハクキンベンジン(1980年代製造?) 8.0g 7.4g 6.5g 6.3g 5.8g 4.6g 3.6g 2.9g 13日
茶色ガラス瓶入りハクキンベンジン(1970年代製造?) 8.0g 7.7g 6.8g 6.6g 6.2g 5.0g 4.0g 3.1g 13日
1984年製造ナショナルカイロ用ベンジンゴールド500 8.0g 7.5g 6.6g 6.2g 5.9g 4.7g 3.5g 2.7g 12日

比重だけでなく、揮発の仕方もより遅くなっています。
この実験から、古いカイロ用ベンジンは成分が変質していることが分かります。
ただし、使うとカイロがだめになるような変質かというと、そうとも言い切れないようです。
カイロ用燃料で一番困るのは、何日経ってもほとんど揮発しない非常に重質の成分が入っていることです。そのような成分があると、タンク内に徐々に成分がたまり、綿を痛めます。ただし、実験結果を見る限り、古くなったカイロ用燃料でも、少し遅くなっただけで順調に揮発は進み、Zippoオイルよりも極端に揮発が遅くなるものはないようです。
最終的に、13日以内ですべての燃料がほぼすべて(測定限界以内までに)蒸発しました。ハクキンカイロの指定燃料であるZippoオイルも12日ですから、相当に古くなった燃料でも、使うとカイロが故障するというほどには変質はしていないようです。しかし、新品に比べると揮発は遅くなっていますから、変質しているのは確かです。
このことから、古いカイロ用燃料でも、使おうと思えば使えるようだ、という結論に達しました。ただし、はっきり違うにおいがついていましたので、非常時以外は使うのはおすすめはしません。PETボトル入りのナショナルカイロ用ベンジンは若干変色しているものもあります。これはボトルの成分か何かと反応したためかもしれません。
なお、「古い」Zippoオイルは現行品と成分が違うため、この実験では使用しませんでした。ただ、元々カイロ用燃料よりも揮発しにくい製品が、長期間保存によってさらにさらに揮発しにくくなるわけですから、使わないほうがよさそうです。パッケージに「カイロ」という表記が入ったのが2003年頃なので、表記がない古いものはカイロには使わないほうがよいでしょう。

※この実験は2008年に行いました。


実験18 Zippoオイルの減少

新品のZippoオイルを缶ごと計り、約1年後に再び計りました。

記号 製造年月日(現地時間) 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2022年 2024年 備考
A 2006年2月20日10時14分 CHF 137.1 137.0 136.4 135.6 135.2 134.7 129.4 128.3
B 2006年2月20日10時14分 CHF 137.7 137.3 136.6 136.0 135.3 134.7 129.9 129.0
C 2007年7月25日14時46分 CH75TH 137.9 137.7 137.3 136.8 136.4 136.1 131.6 130.5
D 2006年2月20日10時14分 CHF 135.1 134.9 134.4 134.0 133.3 133.1 129.0 128.1
E 2006年9月22日16時26分 CH=- 137.2 136.8 136.1 135.2 134.5 134.0 127.1 125.6
F 2007年7月25日14時46分 CH75TH 136.1 135.9 135.4 134.9 134.3 133.9 128.0 126.8
G 2007年7月25日14時46分 CH75TH 136.4 136.3 135.8 135.3 134.9 134.5 129.8 128.9
H 2002年8月13日13時32分 Uウムラウト 125.0 123.1 121.2 119.3 117.3 115.6 98.0 95.4 ※1
I 2006年9月22日07時51分 CH=- 136.9 136.7 136.2 135.7 135.2 134.8 130.0 129.1
J 2006年9月22日16時26分 CH=- 138.3 138.1 137.6 130.2 ※3
K 2007年4月13日07時57分 CHXYZ 332.4 332.4 331.6 330.6 330.0 329.7 324.7 324.8 ※2

※1のみ重質ナフサ、他は全て合成イソパラフィン
※2 のみ大缶(335ml入り)、他はすべて133ml缶
※3 J缶は2009年の測定後にうっかり使用してしまい現存しません。が、2024年になって突如再発見されました。中身を使ってしまったと思っていたのですが、減り方を見る限りだとどうも使用してなさそうなので2024年データを記録しました。

測定日は、2007年12月7日と、2008年12月5日、2009年12月6日、2010年11月27日、2011年12月4日、2012年12月1日、2022年12月5日、2024年12月8日です。 ただし、Kのみは初回は2007年は12月22日に計測しました。

ほぼ同じ場所に置いておいたせいか、減り方がほとんど同じになりましたが、やはりそれでも微量が蒸発しているようです。
これがもし、「すべての缶が0.2gずつ減った」というような場合、逆に測定時の系統誤差を疑わなければならないところですが、B缶、E缶のように1年で0.4g差が出たものや0.1g差しかないものなど、差の付き方にも変動がありましたがので、これは「内容物が減っている」と判断してよいと思います。最初と2年後を比べると、1g以上減ったものから0.5gしか減らないものがあったりして、かなりはっきりとした差が出ています。
意外なことに大缶は最初の年は全く減りませんでした。内容が多い分、変動も多いかと思ったのですが。

参考のため。A,B,D缶、C,F,G缶、E,J缶はそれぞれ同一ロット品です。さらに、E,I,J缶はZippo創業75周年記念缶です。

以前の実験時に使用した20年以上前のカイロ用ベンジンが、新品であるにもかかわらず中身が減っていましたので、減少することはある程度予想はしていましたが、カイロ用ベンジンや以前の重質ナフサに比べると、新Zippoオイルは缶に入れていたときの減り方が遅いようです。もっとも、カイロ用としての揮発実験をしたときにはそれほどには減り方が違ったりしませんでしたので、一体どういうところで違いが出て来たのかは不思議なところです。

それと、※1の重質ナフサは、青い缶のものです。


実験19 2009年、Zippoオイル、また成分変更

2008年11月ごろから製造のものから順次、Zippoの純正燃料「Zippo Lighter Flued」の成分が変わりました。日本では2009年3月頃からこのロットのものが出回るようになったようです。
Zippoは2006年ごろにも成分の変更を行っていて、またしてもずいぶん急な変更です。
参考のため、パッケージに表示された成分等を紹介しますと、以下のとおりです。

〜2006年 重質ナフサ 危険等級II 第4種第1石油類
2006年〜2008年11月 合成イソパラフィン系炭化水素 危険等級II 第4種第1石油類
2008年11月〜 Light Petroleum Distillate(ライター用オイル) 危険等級III 第4種第2石油類

なお、当サイトでは、従来、「重質ナフサ」のものを旧Zippoオイル、合成イソパラフィン系炭化水素のものを新Zippoオイルと呼んできましたが、この「実験19」以降の更新分ではなるべく成分で書くようにします。

今回の変更では、パッケージは、成分表示が変わっているほか、何故かアメリカのZippo本社の電話番号がプリントされています。日本国内向けの缶なのに何でなんでしょうね。さて、今回は危険等級なども変わっているので、成分なども変わっているのかと思い、またしても比重をはかって揮発実験もやってみました。比重測定時の室温は15℃です。揮発実験も前回、前々回と同じように、マンナンライフの蒟蒻畑のカップに、カップの重量は別で8.0gの燃料を入れて揮発させるというものです。
実験は2009年12月末から2010年1月にかけて行いました。

比重 2h 13h 1日 2日 参考(3日) 参考(4日)
ジョイフル本田ホワイトガソリン 0.693
Zippo 合成イソパラフィン系炭化水素 0.719 7.7 6.8 5.9 4.2 3.7 2.1
Zippo ライター用オイル 0.709 7.0 6.1 5.4 4.3 4.0 2.9
コールマンホワイトガソリンエコクリーン 0.693 6.1 3.3 2.2 1.0 0.7 0.2
ハクキンカイロ専用ベンジン 0.728 7.2 5.4 4.1 2.9 2.2 1.2
NTベンジン 0.724 7.0 4.3 2.6 0.8 0.0
シラカワ オイルライター専用オイル 0.706 6.6 2.9 1.9 1.5 1.5 0.9

Zippo合成イソパラフィン系炭化水素のものは、2008年9月17日製造。成分ライター用オイルのものは2009年8月28日製造。

ジョイフル本田のホワイトガソリンは、製造後かなり時間が経っていたものなので揮発実験には使用しませんでした。コールマンホワイトガソリンは名称を変え、成分を変えたことをうたっていたので一応はかってみました。
10日目までにほぼすべてが揮発し終わりましたが、シラカワだけは0.7g残っていました。全量が揮発したのは順に、NTベンジン、コールマン、ハクキン、合成イソパラフィン、成分ライター用オイルのZippoオイル順です。ただ、6日目に成分ライター用オイルのZippoオイルを少量こぼしてしまったのがちょっと残念です。こぼさなかったら、すべてが揮発するのにはもう1,2日余分にかかっていたと思われます。
コールマンははかった限りでは以前のものと大きな特性の差はありませんでしたが、Zippoのほうはかなり差が出ました。危険等級がIIからIIIになっているので、揮発しにくい重質成分が増えたのかとも思いましたが、比重は合成イソパラフィン系炭化水素のものより低く、しかしながら揮発には以前のものよりも時間がかかっています。揮発のスピードは、最初のうちはライター用オイルのZippoオイルのほうが速いのですが、2日目あたりから逆転し、最終的に後まで残ったのはライター用オイルのZippoオイルのほうでした。ネットで検索をしてみると、合成イソパラフィン系のものは、ライターに入れておくと揮発が早くてすぐなくなるというような話が出ていたので、今回のものはそれを改良したのかもしれません。実験15でも、合成イソパラフィン系炭化水素のものはその前のロットの重質ナフサのものよりも揮発しやすかったので、恐らく、ライターに入れておいても同じようなことになると思います。
今回は、ほぼ同時期に製造されたものが手に入らなかったので、重質ナフサのものは実験には使いません(使えません)でした。が、以前の実験との比較をしてみると、実験15では4日目、合成イソパラフィン系のものが残り2.0gだったとき、重質ナフサのものは2.9gでした。今回も、4日目で合成イソパラフィン系のものがほぼ同じ2.1gで、成分ライター用オイルのものは2.9gです。これらの結果から、成分ライター用オイルのものは、揮発性に関しては重質ナフサ時代とほぼ同等なのではないかと推測します。
カイロ用に使った場合、Zippoオイルは以前から、発熱時間が非常に長く、1日分の量を入れても1日半や場合によっては2日発熱することがありましたが、サイト作者がやってみたところ、現行の成分ライター用オイルのZippoオイルも同じように長時間発熱しました。同じカイロにホワイトガソリン等を入れると持ちが短いので、火口の劣化ではないと思います。
においも比べてみましたが、サイト作者のかいだ限りでは、1)重質ナフサ-2)合成イソパラフィン系炭化水素-3)ライター用オイルの順ににおいが強かったです。ただし、合成イソパラフィン系のものだけは、はっきりとにおいの種類が違います。うまく言えませんが、これだけは化粧のにおいに近い、お上品(?)なにおいがします。残りの2つは石油系のにおいです。しかし、においは、強さよりも種類に敏感な方が多いようで、成分がライター用オイルのものはにおいがだめだという方がいらっしゃるようです。

追記。2013年8月7日、この、原材料名に「Light Petroleum Distillate(ライター用オイル)」と記載のあるZippoオイルに表示されている危険等級III 第4類第2石油類という表示は誤っていて、正しくは危険等級II 第4類第1石油類であったことが総務省から発表されました。実験19の内容は当時それを知らずに記述していることをお断りしておきます。なおその後出荷された製品に関しては等級表示は訂正されています。


実験20 燃料の比較2022年版

ハクキンベンジンが製造終了になったり、その後の燃料の状況が大きく変わったので、ひとまずカイロ用燃料になる数種の燃料の比重を比べてみました。
極めて興味深いことも判明したので後述します。

発売元 比重
(カイロ用ベンジン)
ハクキンカイロ指定NTベンジン タカビシ化学 0.743
カイロ用エビスベンヂン ※ハクキンカイロ指定でないもの 恵美須薬品化工 0.732
ベンジン 奥田薬品 0.734
特製カイロ用ベンジン 東工薬 0.740 製造:ENEOS
(ライター用オイル)
新Zippoオイル マルカイ 0.710
(ホワイトガソリン)
コールマンホワイトガソリンエコクリーン コールマンジャパン 0.732
ジョイフル本田ホワイトガソリン ジョイフル本田 0.695
(その他)
試薬壱級リグロイン 奥田薬品 0.739

※2022年12月計測 室温約15℃
サイト作者の使用している比重計は実験用の0.70〜1.00用のもので、検定品ではありません。実験13も含め、0.70以下のものは目盛りを目分量で読んでいます。

東工薬は以前の東薬が組織変更した会社のようです。(ホームページの会社情報に載ってました)パッケージも東薬時代と同じでした。
コールマンは以前は単なる「ホワイトガソリン」と「ホワイトガソリンプラス1」という製品を出してましたが、現在国内で流通しているのは今回実験で使った「エコクリーン」だけのようです。(しかも何故か缶の印字は「ホワイトガソリン」が非常に小さい文字になっています)

サイト作者的には極めて興味深い結果となりました。
まず、カイロ用ベンジンはどのメーカーも0.732〜0.743です。0.735以下のものと、0.740以上のものに(比重では)大別されます。また指定NTベンジンが一番比重が高く、ハクキンカイロは比較的「重い」成分が好きだということが分かります。以前よりもカイロ用ベンジン間の差がなくなってきています。
さらに興味深いのは、指定NTと無指定エビスでかなりの差があるということです。今回残念ながら無指定NTと指定エビスが入手できなかったのですが、少なくとも指定NTと無指定エビスの成分は違うと思ったほうがよさそうです。
東工薬が指定NTに一番近い比重だったのはちょっと驚きでした。以前の東薬カイロ用ベンジンははっきりと比重が低くて、においが強かったからです。昔の東薬と今の東工薬は別物と思ったほうがよさそうです。
もっと興味深いのは、コールマンホワイトガソリンエコクリーンの比重が、以前よりかなり重くなっていることです。5%くらい違うので、明らかに違う製品です。何がエコでクリーンなのか、プラス1と何が違うのかが気になりますが、比重だけ見ると他社カイロ用ベンジンとほぼ同じでした。以前のコールマン(エコクリーンでないもの)は明らかに軽質成分が多くてにおいも強かったのですが、使い心地がどう違うのかも興味のあるところです。
Zippoは以前測ったときは0.709だったので、比重から見る限り製法成分ともに変化していないのかもしれません。(危険等級は総務省に指摘されて修正していますが)
(追記)「“いざ”というとき役に立つガソリン燃焼器具メンテナンスハンドブック」コールマンジャパン、2016年によると、

エコクリーンはホワイトガソリンをさらに精製し、人体や自然に有害な物質をすべて排除した、環境対応型燃料です。

≪特長≫
1 高い燃焼効率
2 ジェネレーター内の洗浄力が高く、目詰まりしにくい
3 自然環境に対して低負荷
4 燃焼類特有の臭いをカット

だそうです。CS揮発油のように、ホワイトガソリンから刺激性の強い成分を取り除いたもののようです。ただ、性質はCS揮発油とは若干違うようなので、日本石油ではない他社から供給を受けているのかもしれません。
またこの冊子によって、コールマンホワイトガソリンが白く着色されている理由が、他の燃料と区別するためであることが明記されました。
ただ、燃料業界内では青く着色したガソリンは航空機用やレース用(公道走行用ではないので揮発油税の扱いが違う)の印らしいんですが…… あと、昔、本当にコールマンホワイトガソリンが普通にホワイトガソリンだった頃から青い着色がされていたし、しかも、当時米国本社のコールマンホワイトガソリンは着色されてなかったので、何故他の燃料と識別する理由があったのか謎です。

また、今回入手できませんでしたが、小川化工も「ホカ-ホカ カイロ用ベンジン」を発売していて、同社公表の安全データシートによると比重0.733です。

また、今回入手はできませんでしたが、ENEOSが一斗缶(18L)単位で販売している溶剤類に、カイロ用にも使えそうなものが数種あって、商品紹介にデータも出てたので紹介します。

ENEOS ホワイトガソリン 比重 0.688
ENEOS CS揮発油 比重 0.743

ENEOSのホワイトガソリンは主に洗浄用に使われる製品なので、(商品紹介にもそう書いてあります)早く乾くよう、比重が低めになっているようです。現在販売されているカイロ用燃料とは明らかに比重が違うので、わざわざカイロ用に18L買うのはちょっとおすすめできません。日常的に機械洗浄をするとか、ガソリン式バーナーやランタンを毎日のように使うという方なら買って余りをカイロ用に使ってもいいかもしれませんが。

CS揮発油の安全データシートと、東工薬カイロ用ベンジンの安全データシートを比較したところ、どうもこの2つの製品は全く同一であるらしい、という結論に達しました。
成分表示のところの、
成分及び含有量 石油系炭化水素 100質量%
            n-ヘキサン 2.2質量%
            シクロヘキサン 19質量%
            メチルシクロヘキサン 17質量%
            3-メチルヘキサン 4.3質量%
            n-ヘプタン 19質量%
            n-オクタン 1.5質量%
のところが一字一句全く同じです。その他、たとえばこの3行下にある「企業秘密なので記載できない」とかいう刺激的な文言も同じです。(この文字はENEOSの他の製品の安全データシートにもあります)そもそも、異なる名称の製品なのに、6種類の成分が有効数字2桁のレベルで全部同じ(しかもこの6種で63重量%分になります)という時点で、全く同一の製品と考えてよいと考えます。
CS揮発油の商品紹介の比重が0.743なのに、安全データシートのほうが0.75ってところとか若干気になるところもありますが。(なお、東工薬カイロ用ベンジンの安全データシートの比重ももちろん0.75です。)

あらためてCS揮発油の商品紹介を見ると、カイロ用燃料と比重がほぼ同じで(そりゃそうだろう)、においの元になったり人体に有害な成分を低減してある、と書いてあるので、カイロ燃料には最適といえそうです。商品紹介を見る限りだと、揮発しにくい成分もENEOSホワイトガソリンよりは少なそうです。
ネットで調べると、一斗缶でENOSホワイトガソリンやCS揮発油を買ってホワイトガソリン用の器具やカイロに使っている人もいるようです。サイト作者は興味はありますが18Lも買っても使い切れないので買えませんが。

ENEOSの揮発油カテゴリ(工業用揮発油)にはこのほかにもLAゴム揮発油(G)という製品がラインナップされていますが、200L以上でないと販売しないようなので一般人には縁のない製品のようです。芳香族含有量を選択的に減らし、とか、カイロ使用者にはちょっと気になる表記が商品紹介に載っています。比重は0.746です。

そしてこの事実からもう一つとても気になること。サイト作者が測ったハクキンカイロ指定NTベンジンの比重は偶然にもCS揮発油と同じ0.743。そして、かつての純正燃料ハクキンベンジンは日本鉱業が製造していた時代がありました。日本鉱業はさまざまな企業合併を繰り返し、ENEOSの一部になっています。
奥田(オクダ)とか東工薬とか、ベンジンの質が明らかに変わったっぽいメーカーが多いのですが、あるいはジャパンエナジー(旧日本鉱業)と新日本石油が経営統合したことが関係しているかもしれません。以前は新日本石油系の燃料と、ハクキンベンジンなど日本鉱業系のカイロ用ベンジンで大きな差が明らかにあったのですが、統合の結果、両社で別々に作っていた似たような燃料類のラインナップが統合されたようで、カイロ用ベンジン同士の比重の差が縮まっているのもあるいはそのせいかもしれません。なお、CS揮発油は元々新日本石油系の製品です。

奥田ベンジンと奥田リグロインはパッケージも同じだしあるいは内容物も同じものかとも思ったのですが、(規格を見る限り、リグロインをベンジンと称して売っても問題はなさそうなので)比重を見たところ別物のようです。
リグロインはどのベンジン式カイロメーカーも公式には燃料として使えるとは言っていませんが、日本石油学会の石油豆知識のコーナーに「白金カイロ用燃料としても適している。」と書いてあります。

当サイト読者ならおなじみ、カイロ用としては使えない「Aベンジン」ですが、小川化学工業東工薬の安全データシートを見たところ、主成分がn-ヘキサン(小川は95重量%、東工薬は60-70%)。比重も小川0.675、東工薬0.679と、一般的カイロ燃料から大きく外れているのでやはり使わないほうがよさそうです。使っても揮発しやすい成分が多くてにおうし持ちも大幅に短くなると推定されます。
(n-ヘキサンはカイロ用ベンジンにも多少は含まれている成分ですが、こんなに比率は多くありません)

もう一つ。戦前のハクキンカイロには局方ベンジン使えます、と書いてありました。今は書いてありません。一体何故推奨燃料から外れたのか、探ってみることにしました。
局方ベンジンというのは恐らく日本薬局方石油ベンジンのことだろうと推測し、日本薬局方を見てみたのですが、(p.991)石油から分離された混合物で比重0.65〜0.71くらいしか定義がなさそうです。これだと、比重の高いものなら何とか今も使えるかもしれないけれど低いものだと今のハクキンカイロでは使えそうにないです。
戦前の本体に現行HAKKIN換火口をつけて指定燃料を使うと熱くなりすぎることとかも考慮すると、当時の火口(や本体)は今より比重の低い燃料に最適になるように調整されていたのかもしれません。


ネットで調べられるカイロ用燃料(にもなる製品)の安全データシートから拾ってきた値です。
他の表と縦横が入れ替わっていますが、横に長くなりすぎそうなのでこうしました。
リグロインは安全データシートではなくJISの規格です。

製品名 ホワイトガソリン カイロ用ベンジン ホカ-ホカ
カイロ用ベンジン
(参考)リグロイン
JIS K 8937:2015
販売元 ENEOS 東工薬 小川化工
沸点、初留点
及び沸騰範囲
初留点-終点
50-140℃
初留点-終点
85-120℃
初留点-終点
40-145℃
留分(80 ℃〜110 ℃)
体積分率% 90以上
燃焼の又は
爆発範囲
爆発限界
推定値1-7%
爆発限界
推定値1-7%
爆発限界
推定値1-7%
引火点 ≦-50℃ ≦-15℃ ≦-20℃
自然発火温度 推定値200-410℃ 推定値200-410℃ (記載なし)
動粘度 ≦20.5(mm2/sec)40℃ データなし データなし
密度(g/cm3) 0.69(15℃) 0.75(15℃) 0.733(15℃) 0.68g/mL〜0.75g/mL

※東工薬カイロ用ベンジンの値は、ENEOS CS揮発油と全く同じです。
安全データシートでは単位にかっこをつける( ℃だったら、(℃)と書く)ことになってるみたいですがそこは省略して書きました。

JISに載っているリグロインの性質は下記のとおりです。
リグロインは,主成分が炭素数 7〜8(C7〜C8)の炭化水素の混合物であり,無色の揮発性の液体で特異な臭いがある。エタノール及びジエチルエーテルに極めて溶けやすく,水にほとんど溶けない。密度は,0.68g/mL〜0.75g/mLである。

数社のリグロインの安全データシートを見ましたが、少しずつ値は違っていて、各社それぞれが規格内に当てはまるように独自に製造をしているようでした。カイロ用ベンジンとほぼ同一(例:0.742)のものもあれば、規格内最低限の0.69というところもあり、カイロ用としては使えはするけれど使用感はホワイトガソリンと同程度のものもありそうです。

その2

その後、小川化工ホカ-ホカと、指定エビスベンジンが手に入ったので、2023年1月に同じように比重を計ったのですが、これが結構ショッキングな値でした。
まず、小川化工ホカ-ホカを計ったのですが、0.690くらいしかない。サイト作者の比重計は下は0.700までしか目盛りがないのでそれより小さいときは無理矢理推測で読んでいたのですが、ひょっとすると0.690もないかもくらいの値です。カイロ用燃料として売られている製品では出たことのない値です。そもそも、小川化工の製品安全データシートの値は0.733なのです。まあ、0.75って書いてあるものが0.74しかなくても誤差の範囲かなあ?比重計がちゃんとした検定品じゃないからかなあ?とか思えるくらいの差ですが、いくら何でも5%も違ってたら別物です。
そのあと、指定エビスベンジンを計ったら、なんと、0.711しかない。同じ純正NTベンジンが0.743なのに、何でここまで違いすぎるのか。やっぱり比重計がおかしいのか。
小川化工ホカ-ホカは別のところで買ったものがまだあったのでこちらも一応計ってみたところ、0.740でちょっとほっとしました。2本ある小川化工ホカ-ホカの差はどうやら単なるロットの違いのようです。ただ、ロット番号の記載のある製品でもないし、店頭での見分けは困難です。
実験用比重計を使用。室温約15℃でした。

それにしても、指定エビスの値が異様に低すぎます。指定NTとは別物です。さらに不思議なのは、同じ会社の無指定エビスのほうは指定NTとそこまで差はないのです。
かつての純正ハクキンベンジンの比重は0.729〜0.734でした。これを勘案しても、ハクキンカイロは比重に関しては(時代によって変動はあったとしても)0.73〜0.745くらいを想定して製造されていると考えられます。ただ、カイロ用燃料として売っているZippoオイルの比重も0.71くらいなので、カイロ用として不適というわけではありません。

小川化工ホカ-ホカの古い2010年版の製品安全データシートも見てみたのですが、そこでも比重は0.733でした。手元のホカ-ホカが店頭で13年以上眠っていたものにはとても見えないのですが……
目をこらしてよくよく見ると、0.690のものと0.740のものはパッケージの印刷の文字の濃さが若干違ったので、ロット違いなのは確かなようです。


実験21 揮発実験2023年版

実験20で使った各燃料の残りを使って実験13その2とほぼ同じ方法を使って揮発実験を行いました。利用した容器は前回と同じくマンナンライフの蒟蒻畑のカップです。なお今回はララクラッシュの容器を使いましたが、サイト作者の見たところ、容器の形状大きさ重量は前回のものと同じのようでした。またしても1.2gのものと1.3gのものがあったので、1.2gのものには9.2gになるまで、1.3gのものには9.3gになるまで容器に燃料を入れて放置し、2時間、13時間、16時間、24時間後に重量を量りました。表の数値はカップの重量は引いてあります。

燃料 2h 13h 16h 24h 48h 72h 96h
コールマン
エコクリーン
7.7 6.7 6.1 4.4 1.1 0.2 0.1
ジョイフル本田
ホワイトガソリン
6.2 4.2 3.7 -
東工薬
カイロベンジン
7.4 6.4 5.9 4.2 0.9 0.4 0.1
指定NTベンジン 8.1 6.3 6.0 4.0 1.2 0.8 0.7
Zippoオイル 7.1 6.2 6.0 4.9 2.1 2.5 2.1
無指定
エビスベンヂン
7.5 6.7 6.3 4.7 2.5 2.2 1.9
奥田ベンジン - (6.0) (4.1) (1.3) (0.2) (0.1)
奥田リグロイン 7.6 6.5 6.1 4.4 1.4 0.3 0.0

ジョイフル本田ホワイトガソリンは16時間経過後うっかりこぼしてしまい24時間以降のデータがありません。
奥田ベンジンも2時間のところでうっかりこぼしてしまい、そこから再スタートして測ったので数字は参考値です。
13時間とあるけれどそこは奥田は14時間のところで計りました。なお22時間のところで4.4g。一応公平を期するため24時間のところはしょうがないので奥田ベンジンだけ2時間あとでもう一度測りました。48時間は奥田ベンジンだけ46時間、同じく72時間は70時間です。
前回と比べ揮発の速度が速いのですが、これは置いた環境によるものとも思われます。前回から15年も経ってサイト作者の居住環境が大きく変化したため、前回(実験実験13その2,実験19)と同様の環境に容器を放置することができませんでした。前回は一応は風の当たらない室内でしたが、今回は風の当たる場所に置きました。
以前よりも燃料間の差がはっきり減っています。と言いたいのですが、何故か無指定エビスベンジンだけが異様に値が違っています。重質成分が多いのかもしれません。
途中でこぼしちゃいましたが、ジョイフル本田ホワイトガソリンは今も昔も変わりなくごく普通にホワイトガソリンなのですが、コールマンエコクリーンは明らかに今までのコールマン純正燃料と異質で、揮発の仕方はホワイトガソリンよりもカイロ用燃料に近くなっています。実験19のときのコールマンエコクリーンとも、かなり性質が違っています。なお以前コールマンジャパンもコールマンポータブルイージーウォーマーというベンジン式カイロを販売していた時代がありましたが、当時この製品の指定燃料は「カイロ用燃料」で、ガソリンは使うなという注意書きがありましたので、恐らくコールマンジャパンがカイロ用に成分を調整したということはないと思います。
無指定エビスは揮発の仕方だけ見ると他のカイロ用ベンジンよりはZippoオイルに近い感じです。
指定NTは最初のうちの揮発がとても早かったのですが、24時間を過ぎた頃から減りが遅くなっていて、重い成分も軽い成分も両方入っている感じです。

揮発の仕方だけでおおざっぱに似たもの同士を集めると、こんな感じです。
早い → コールマンエコクリーン、東工薬カイロベンジン、奥田ベンジン、奥田リグロイン
少し遅い → 純正NT
遅い → Zippoオイル、無指定エビス

指定NTはかつてのNTと全く性質が違い、揮発の仕方だけで見るとかつてのハクキンベンジンに似ています。そりゃあハクキンカイロ指定になったんだからそうだろうと言われるとそのとおりなのですが。
また、指定NTは指定NT以外のどの燃料とも揮発の仕方が違います。やっぱりハクキンカイロだけが持つ秘密のレシピのようなものがあるのでしょうか。

ジョイフル本田ホワイトガソリンは、前回の実験のときからあまり調合が変わっていないっぽい減り方なので、12時間くらいまでは非常に早く揮発し、その後急激に遅くなる感じです。実際、こぼした残りも96時間のところでまだ残っていました。

実験21 その2

その後、数種類のカイロ用ベンジンを入手したのでまたやってみました。実験は2023年1月に行いました。
例によってまたこぼしたりしてやっぱりうまくいかなかったのですが。っていうかまたジョイフル本田ホワイトガソリンをこぼしました。(あんたジョイフル本田人恨みでもあるのか?)ので、ジョイフル本田ホワイトガソリンのみ2時間遅れ、つまり、他所で24時間のところは22時間の数字が入っています。

燃料 比重 2h 13h 16h 24h 48h 72h 96h 120h
コールマン
エコクリーン
0.732 7.0 6.6 5.5 4.1 2.2 0.6 0.0
ジョイフル本田
ホワイトガソリン※
0.695 4.6 3.4 2.2 1.2 0.6 0.4 0.0
東工薬
カイロベンジン
0.740 7.6 6.5 5.7 4.8 2.5 1.0 0.0
指定NTベンジン 0.743 7.4 6.7 5.9 5.2 2.7 1.3 0.9 0.6
Zippoオイル 0.710 6.7 6.3 5.7 5.0 4.2 3.6 3.0 2.4
指定エビスベンジン 0.711 7.4 7.2 6.7 5.8 4.3 3.4 2.6 1.3
無指定
エビスベンヂン
0.732 7.3 6.6 5.7 5.4 3.6 2.7 2.1 1.5
奥田ベンジン 0.734 7.2 6.6 4.8 4.5 2.1 0.5 0.0
奥田リグロイン 0.739 7.2 6.5 5.6 4.9 2.5 1.3 0.6 0.0
小川化工ホカ-ホカ
比重0.74ロット
0.740 7.2 5.7 5.6 4.7 2.5 1.4 0.6 0.0

8日後(192h)に残っていたのは指定NT、Zippoオイルの2種でした。11日後までにZippoオイルはなくなり、最後に残った指定NTは13日でなくなりました。

なお、実験20その2にも書きましたが、小川化工ホカ-ホカは、性質の全く違う2本を入手したのですが、上記実験で使用したのは安全データシートとほぼ同じ比重を持つほう(サイト作者は小川0.74と呼称)です。cf
もう1本の小川化工0.69は1日遅れで同様の実験を行いました(素直にこぼしたと言えよ)

燃料 比重 2h 13h 16h 24h 48h 72h 96h 120h
小川化工ホカ-ホカ
比重0.69ロット
0.690 7.3 5.5 - 2.8 1.3 0.8 0.4 0.3

実験結果を基に活用編でサイト作者おすすめ燃料ランキングを出しておきましたのでそちらもごらんください。
はっきり言えるのは、小川化工ホカ-ホカはおすすめできないということです。0.74ロットは揮発の仕方もわりとカイロ用ベンジンに似ていて、(一番似ているのは奥田リグロインですが)特に問題はなさそうですが、0.69ロットのほうはジョイフル本田ホワイトガソリンに一番よく似ていて、カイロを痛めることはなさそうですが、もちも短くにおいも強く発熱量も少なくなると推測されます。というかこれだけ比重が違うと、ボトル1本あたり20g程度重量も違うはずで、そのへんの家庭用はかりで計っても分かる程度の検品もしてなさそうなメーカーという理由でもおすすめはいたしかねます。
クチが青く少し角張った容器に入っている製品で、重量が415g程度のものは、他社製カイロ用ベンジンと性質はほぼ同じです。10g以上軽いものは中身は限りなくホワイトガソリンと似た液体の可能性があります。
(追記)0.69ロットを探してきて計ったら390gでした。

少し気になるのは、以前、揮発しにくい燃料(具体的には原材料重質ナフサ時代のZippoオイル)は、電子点火式の3Rプラチナムで点火に失敗することがあったので、揮発が遅い指定エビスベンジン、無指定エビスベンヂン、Zippoオイルがどうなのかちょっと気になります。ただ、その後原材料を変えたZippoオイルではそういう話は聞かなくなったので、今は平気なのかもしれません。

CS揮発油は東工薬カイロ用ベンジンと、恐らく99.9999999999%同じものです。しかも、においや刺激の元になる成分を除去してあるので、「カイロ用」と銘打ってないものの中では一番おすすめです。ただし、18L缶でしか購入できませんし、入手できる燃料店も極端に限られます。
奥田リグロイン リグロインは何社からか出ていますがこの奥田のものは奥田ベンジンよりもよりカイロ用ベンジンに性質が性質が近く、特に指定NTベンジンとほぼ同じ性質です。
リグロインの規格には幅があって、各社の製品安全シートを見たところ、カイロ用ベンジンに近い比重のものと、ホワイトガソリンに近いものがありました。どちらにしてもカイロ用としては使えるとは思いますが、ものによってはにおいが強かったり持ちが短かったりするかもしれません。奥田薬品のものも、ロットによって性質が大きく変動する可能性もあります。(奥田薬品は「リログイン」の規格に適合するように製造しているのであって、カイロ用として製造しているわけではないため)メーカーによっては刺激の強い成分を多く含んでいるものもありました。奥田薬品のものが刺激性のある成分の除去とかをしているかはわかりませんでした。
コールマンホワイトガソリンエコクリーン これも刺激の元になる成分などを除去しているのが売りです。揮発がやや早いのが気になりますが、比重は各社カイロ用ベンジンと大差ないので、使用感もあまり変わらないだろうと推測します。以前のコールマンホワイトガソリンはジョイフル本田ホワイトガソリンとほぼ同じ性質だったのですが、今はだいぶ違うようです。

ジョイフル本田ホワイトガソリン 持ち時間が短く、発熱も少ない可能性があります。他の用途で使った余りをハクキンカイロに使っても問題はありませんが、カイロ用にわざわざ購入するのはおすすめしません。

考察とか

これで国内で一般人が普通に手に入れられるカイロ用燃料はほぼ調べられたんじゃないかと思います。(ホワイトガソリンやリグロインなどを除く)
以前は多種多様なカイロ用ベンジンが発売されていましたが、今はほとんどないようです。ネットやネットの販売店とかを探しても、これ以外のカイロ用燃料が出てきません。
指定エビスベンジンと無指定エビスベンヂンの性質が思ったよりかなり違うのには驚きましたし、また、指定NTベンジンと指定エビスベンジンもだいぶ性質が違うのが意外でした。
以前のハクキンカイロ純正ハクキンベンジンに性質が近いのは指定NTベンジンのほうのようですが、ただ、指定エビスベンジンが極端に使い心地(火付き、におい、持ち、熱量)が違うかというと、正直それほど差は出ない気がします。比重は指定エビスのほうが低く、つまり発熱量は低下することが予想されるのですが、揮発は指定エビスのほうが遅く、つまり反応せずにベンジン蒸気としてただ蒸発して無駄になる分も減少するとも予想でき、両方相殺されると同じくらいにもなりそうな気がします。においは揮発の遅い指定エビス、無指定エビス、Zippoオイルは低くなると予想できます。
これらの燃料のうち、ジョイフル本田ホワイトガソリンは、やはり若干揮発が早く、カイロ用に使うと早く終わったり熱量が少なかったりする可能性がありますが、元々カイロ用として販売されているものでないのでしょうがないでしょう。ホワイトガソリン用器具で使用したり、機械洗浄とかで使って余りをカイロに、というのならば勧められますが、カイロ用として積極的に購入するのはおすすめしません。
同じ(?)ホワイトガソリンでも、コールマンエコクリーンは比重、揮発の仕方が他社製カイロ用ベンジンにかなり近くなっており、同程度の使い心地になるものと予想できます。
カイロ用の燃料の中では何故か奥田ベンジンもジョイフル本田ホワイトガソリンに少し似た傾向があります。何故か奥田リグロインのほうが燃料としての特性はハクキン指定ベンジンに近いようです。ただし、奥田リグロインが他社のカイロ用ベンジンのように、人体にとって刺激の強い成分を除去しているかは分からないですが……それを言ったら、奥田ベンジンも分からないのですが。
ただ、サイト作者の周りでは何故か奥田ベンジンが一番安く手に入るので、サイト作者もわりとそこそこ使っています。比重もそこそこあるし、特に問題はないと思います。

上にもちらっと書きましたが、比重、揮発の仕方ともによく似たそっくりさんグループがあります。
指定NTベンジンと奥田リグロインと小川化工ホカ-ホカ比重0.74ロット、コールマンエコクリーンと奥田ベンジン、小川化工ホカ-ホカ比重0.69ロットとジョイフル本田ホワイトガソリン、Zippoオイルと指定エビスベンジンなどです。
原料が似ているか同じものなのかもしれません。Zippoオイルは輸入製品なので多分他人のそら似でしょうが。

燃料に関しては、15年以上前に実験したときと、いろいろと様相が変わっていているようです。
以前も刺激の強い物質をわざわざより分けた燃料はあったのですが、今のように高精度で分けてはいなかった気がします。
石油会社が何故そんなことをするのか。だって、1リットルのホワイトガソリンをただホワイトガソリンとして売ったときと、0.95Lのホワイトガソリンと0.05Lのトルエンとかにわざわざ分けた場合、まず、分離する手間がかかる上に、ホワイトガソリンの売り上げが減ってしまいます。でも。です。トルエンが工業用原料としてそれ以上の値段で売れれば、逆に儲かる。ということで、刺激の強い、けれど、高値で売れる成分はわざわざ分離して別に売るようになったのではないかと思います。以前はそこまでして分離して売るだけの経済的メリットがなかったか、技術的に難しかったか、それが技術革新で楽にできるようになったのかもしれません。
使用する側にも刺激の強い成分が除去してあるのは(使う人の健康以外にも)意味があります。人体に刺激の強い物質は、機械類にも刺激が強いことが多いです。人体にやさしい成分を使ったほうが、機械の腐食も抑えられるというしくみです。コールマンエコクリーンとかそういう理由で作っていると思われます(人体にもやさしいし、ランタンやバーナーの腐食も遅くなる)。カイロの火口もあるいは痛みが遅くなっているかもしれません。
サイト作者が一番不思議なのは、2種類のエビスベンジ(ヂ)ンとZippoオイルの性質です。石油を蒸留して作る燃料は、通常、比重が低い物は早く揮発し、高い物は揮発が遅くなるのです。が、この3つだけは何故か比重が低いのに揮発が遅いのです。
これは、原油を分留してから刺激の強い成分を除去、というような通常の方法で作られているのではなく、何か全く違う方法で比重が低くて揮発しにくい物質を工業的に製造しているとしか思えないのですが、たかが(失礼)カイロ用燃料のためだけに、そんな手の込んだことをするかなあ?とも思います。

もう一つ。刺激の強い成分をわざわざ除去してある燃料は、その分、においも減ってる可能性が大きいです。刺激が強いってことはつまり鼻にも刺激が強いということなので。以前は揮発しやすい=においが強いと判断できましたが、今は単純にそうは言えなくなって、どの成分をどれくらい除去できているかでもにおいの質や強さは変わりそうです。


実験22 使いかけカイロ用ベンジンは一夏でどれくらい目減りする?

実験21で使用したベンジンの残りを、重量をはかって保存しておき、次のシーズンの始まりまでにどれくらい減っているのか比べる、という、要するに、「使いかけ燃料は一夏でどれくらい目減りするのか」の実験です。それぞれのカイロ用燃料はひとまとめにして日の当たらない同じ場所にずっと置いておきました。
結構意外な値が出て、サイト作者もちょっとびっくりです。

燃料 2023年1月重量(g) 2023年10月重量(g) 差(g)
奥田リグロイン 371.3 355.3 16.0
特製エビスベンヂン(無指定エビス) 359.7 338.9 20.8
指定NTベンジン 368.5 357.5 11.0
東工薬カイロ用ベンジン 369.4 355.0 14.4
Zippo大缶 258.0 247.1 10.9

実験21で使用した量が少しずつ違う、つまり、元々の燃料が最初から量が違うので、この実験結果は、「あの銘柄は大きく目減りする」的な指標にはしないでください。だいたい100ml程度を実験21で使用していたと思います。単にサイト作者が栓を閉めるとき思い切りぎゅうぎゅうに締めてないために目減りが進んだ可能性もあります。
意外にかなり減っているのがびっくりでした。
でもあれ? あの燃料は何でないの? というと20,20,21の時点でかなり消費してしまった銘柄についてはそもそもスタートの条件が大幅に変わりすぎるのでやりませんでした。(比重があまりに異常な値が出たので測り直した某カイロ用ベンジンや某指定ベンジンなど)
それでも、Zippo以外の4つの容器の平均値、14.62gは、だいたい20ml程度に相当します。400mlの燃料が一夏で20mlつまり5%目減りするというのは特筆すべき結果だと思います。

サイト作者も、新品状態のときよりもいったん封を切って少し使ったもののほうがなんだか減りが早い気がしてたのですが、実際そのようです。
それにしてもこんなはっきりした結果が出るならば、1種類でいいから封を切っていない新品も一緒に比較すればよかったと思います。
ただ、封の仕方もメーカーによってばらばらで、たとえば奥田薬品とかは内蓋がないし、内蓋のあるNTや東工薬とは全く違う結果になると思います。
なおここで使用した燃料は今シーズン、サイト作者がカイロ用に使用します。実験18とかでやめるきっかけを失ってずるずると10年以上も同じZippo缶をずっと保存し続けていた反省から、今度の燃料はとっとと使ってしまうことにします。


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